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旅をする。赴くままに旅をして、通りがかった暖簾をくぐり、カウンター席で酒を呑む。※コロナで旅ができないので、昔の旅についても載せることにしました。

冬来たる盛岡で「仮想・一人旅」気分で呑み歩き、老舗スナックで大先輩たちと歌った夜 2019年12月7日(土)

休日出勤していたら、急に一人で旅に出たくなった。

札幌、いや新潟も捨てがたい、京都は今年行ってないな。。。などと旅へと思いを馳せgoogle mapを開いて、その札幌やら新潟やらのまちを仮想で歩き回ってみた。

 

ホテルは空いているか、移動手段はどうしようかとさらに思い巡らせてみた。

が、「アホかオレは、こんなに仕事溜まって休日出勤してるのに旅どころじゃないだろ。仕事片付けなきゃ年末年始をゆっくり迎えられないだろ」と現実に戻り、ぱたぱたと仕事を再開した。

 

しかし、どこか出かけたい気持ちを消え去ることができなかった。

仕事どころではなくなり、早めに休日出勤を切り上げ家に帰り「ちょいと友だちと呑むことになった」と家族に伝えて家を出た。

 

そして、さも今さっきホテルに荷物を置いて、まだ明るいうちから旅先で一人呑みをはじめようというシチュエーションであると思い込むことにして、“仮想・一人旅”気分で盛岡のまちを呑み歩いてみることにした。

まあ、くだらない“ごっこ遊び”というヤツだが、自由になれると自分の心は浮き立っていた。

 

一軒目に訪れたのは八幡のやきとりの名店「菊すい(いつも「菊水」なのか「きく水」なのか「菊すい」なのかわからなくなる)のお隣に、今年の夏に新規開店した「晴れる家 ひろき」の暖簾をくぐる(「ひろき」は脱サラしてこの店をオープンさせたご主人の下の名前である)。

 

15時オープン、ドリンクはセルフというシステムの個性的な店だが、ご主人は至ってまともな方。勤め人時代はだいぶ呑み歩きがお好きだったらしく、市内飲食店のことには随分お詳しい。

で、飲食好きが高じて、定年退職前に早期で仕事を辞められ、店を出したという。

 

ドリンクは黒ホッピーを氷なしで。片口に注いだキンミヤを、きんきんに冷えたジョッキに入れ、やはりキン冷えの黒ホッピーをどぼどぼ注ぐ。

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鮪刺し700円。これで一人前

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キク汁500円。こちらも一人前がたっぷり

ツマミは鮪刺しとキク汁。

午前中に軽く適当なものを口にしただけでエライ空腹だったのと、まるで1月厳寒期かのような冷え込みですっかり体が芯から冷え切っていたので、汁物を注文してしまった。

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暖簾

こちらの店の暖簾、八幡の老舗名店「水前寺」から贈られたものだという。たしかに暖簾には「水前寺より」としっかり入っている。

なんでもご主人は「水前寺」に足繁く通っておられた縁もあり、「水前寺」の大将もいろいろ応援してくれたという。

 

まず出された鮪は養殖のそれとはまったく別物の色合いと食感、味わい。

これも鮮魚系にめっぽう強い「水前寺」と同じ仕入れか何かだろうか(今度聞いてみよう)。

 

「キク汁」は、今から春を迎える真鱈の白子入りの塩ベースのもの。

真鱈の身も入り、体が暖まる贅沢な一品。

 

呑みながら食べながら、ご主人と盛岡の飲食店について今のこと昔のことを話す。

自家製塩辛を追加で注文し(たっぷりの肝が使われていて旨い)、これから上田通まで歩いて足を伸ばし、十数年ぶりに呑むのだという話をすると「お、では『トクちゃん』とかですか?」とご主人。

 

さすがわかってらっしゃる。「トクちゃん」は上田通で一、二を争う名酒場。わたしは十数年前まで近くに住んでいたから、わりとよく足を運んでいた店だ。

上田通は八幡から徒歩で40分程度、5、6kmは離れていようか。中心市街地北側の文教地区・住宅街である。岩手大学も近いので学生が多いエリアだ。

 

黒ホッピーは外をお替わりし、鮪刺し、キク汁、塩辛で2000円ちょっと。

滞在時間は1時間といったところ。

 

二軒目「トクちゃん」までは、予定通り八幡から歩いた。

途中トイレ休憩でスーパーに寄って、一軒知り合いのワインショップに立ち寄り時間調整をしつつ、中央病院前に「Nagasawa Coffee」の洒落た店舗を眺めつつ、「トクちゃん」が開店する17時半に店に到着した。

 

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よく目立っていた大提灯はなくなったらしい

迎えてくれたご主人と女将さん、十数年ぶりにお邪魔したと話すと「すっかり齢をとったし、お客さんも変わってきた」と笑顔で話した。

 

生ビールを呑みつつ昔話をする。景気が良かった時代、岩手大学の学生が溢れていた時代、不便だったけど心底楽しかった時代。

上田通にはもっともっと飲食店があり、年がら年中週末だろうとなかろうと日が暮れると会館(上田会館、八重洲会館)からは嬌声があがり、今はなくなった「光楽園」は学生たちが朝まで呑み、同じくなくなった「鳥信」は渋い焼鳥店、同様の「養老乃瀧」は激安呑み放題ができ、やはりなくなった「政」は小洒落た居酒屋だったがラーメンがとても美味しかった。

 

そして「さわ」という喫茶店も好きだった。ハヤシライスが美味しい店で、呑んだ後に洋食を食べたり甘いものを食べたりした思い出の店。

ご主人と女将さんに聞いてみたが、今も営業しているかどうかはわからないという。

 

以前訪れていた時は刺身類と日本酒(昔から『よえもん』がある)だったが、この日はご主人が担当するやきとりをいただく。皮、シロ、砂肝、ハツ、カシラを焼いてもらい、ちびちび「よえもん」を。

少しするとわたしより一回りぐらい年上の女性二人客が入ってきて、隣の席に座り女将さんと世間話をし始めた。どうやら常連らしい。

 

やきとりは小ぶりでどれもぱりっとかりりと焼けていて、塩が薄めでしみじみとした味わいが、なんだかどこか懐かしい昭和の味。

鮮度が良くジューシーでしっかりとした肉を使ったやきとり(焼鳥)もいいが、良い意味で脂気の少ないものも、干物を食べているようで趣がある。

 

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「こういうのでいいんだよ」的なツマミ

本柳葉魚の干物もあるようなのでそれも焼いてもらう。

「しっかり干してるから、さっと炙っただけで美味しいですよ」と女将さん。

 

こちらも期待通りのしみじみと旨く、お隣二人客は本鮪のカマトロ刺しを美味しそうに食べているが、このときはやきとりと柳葉魚で十分だった。

「こういうのでいいんだよ」と満足し、グラスに少し残った「よえもん」をぐいっと空け会計をした。

 

「トクちゃん」を後にし、上田通を中心市街地に向かって歩いていると霙が強く降ってきた。

“仮想・一人旅”のわたしは、旅支度に抜けがあって傘を持っていなかったので「これはいかん」と中央病院前の屋根付きのバス停に逃げ込み、やってきたバスに乗って映画館通のど真ん中で降りた。

 

少し迷って程近いオーセンティックバー「バッカス」の扉を押した。

なんとなく、このあたりは“旅してる感”が薄いので、あえて避けようとしていたのだが。

 

とはいえ、霙で寒いしトイレにも行きたいしで、若干妥協モードで「バッカス」の暖かな店内にほっとし、お通しのコンソメスープに一息つき、一杯目はアイリッシュコーヒーを注文した。

 

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寒い夜に呑みたいカクテルの一杯

店内は10人ぐらい、5、6組の先客があり、わたしはカウンター一番奥の席に通された。バーテンダーの所作から客の様子まで綺麗に見通せるウォッチングには最適の位置取りであった。

店内を眺めながら一杯目アイリッシュコーヒーを空けたところで、いつも相手をしてくれる若い女バーテンダーが店の奥から現れ、「今日は何軒目ですか?」と訪ねてきた。

 

「盛岡に旅行に来て、一人呑み歩きしてるって遊びしてるんですよ。んで、今日は午後3時から呑み始めて三軒目です」と話したら、「相変わらず楽しい呑み方してますね」と笑ってくれた。

 

「次、どうなさいます」

「んでは、雪国を」

「あ、もしかして雪国の映画,ご覧になりました?」

「・・・いえ、外が霙模様だったので。。。」

「(笑) はい、かしこまりました」

 

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とても美しいカクテル「雪国」

カクテル好き、バー好きなら知らない人はいないだろう、日本のオリジナルカクテルでありスタンダードカクテルとなった「雪国」は酒田のバー「ケルン」で名バーテンダー井山計一氏の手によって1958年に誕生した。

井山氏は90歳を超えた今でも現役バーテンダーとしてカクテルを作り続けられておられ、その生涯が「YUKIGUNI」と題してドキュメンタリ映画化され、今年上映されたのだ。

 

盛岡では11月中旬に一週間程度上映されたらしいのだが、残念ながらわたしは見逃した。次回チャンスがあれば、と思っている次第であった。

 

さて、その女性バーテンダーが手際良くシェイクして作ってくれた「雪国」は、甘口ではあるがライムジュースの爽やかさが巧くマッチし、さすが戦後最高の国産カクテルと言われる一杯である。

だいぶ久々に呑んだが、改めてその旨さに感動した。

 

歩いて八幡へ戻った。

霙は止み、傘がなくても歩けるようになっていた。

 

八幡の隣、松尾町は盛岡劇場のすぐ脇にある「リッチ」というスナックへ足を運んだ。

このあたりの酒場事情に詳しいとある飲食店店主から「あの『リッチ』っていうカラオケスナックは立派なカウンターがあってなかなかのものです。景気の良い時代は、女の子を5人も6人もカウンターに立って相手してくれてましたね。今じゃママ一人ですけど」と聞いており、この日は“仮想・一人旅”なので、旅に出る前に情報を収集していたという体で訪れてみる。

 

普段常連客ばかりだからだろうか、店に入るとママが少しびっくりしたような顔を見せ、ワンテンポ遅れてから「いらっしゃいませ」と立ち上がった。

 

「一人です」というとカウンター席を勧められ、呑みものはどうします? と聞いてきたので「ハイボールお願いします」と答えた。

すぐに作ってくれたハイボールは「角ハイ」で、これをちびちび呑りながら紹介されて来てみたことを話していると、ママの表情も和らいで来て、いろいろ話をしてくれた。

 

昔は若い女性店員を何人も使っていたこと(聞いていたとおりだ)、最近では呑みに出る人も減って寂しくなってきたこと(上田通と一緒だ)、たまに来てくれるのは自分より年上の70代80代の客ばかりになったことなどなど。

 

お年寄りの居場所になってるってことか、と思いながら話を聞いていると店のドアが次々と開き、人生の先輩方がカウンター席に座り始めた。

連れてこられた若い女性客もいたが、わたしを加えて店内平均年齢は平気で70代は行っていたと思う。

 

で、先輩方の元気さがすごい。おのおの十八番があるのだろう、どんどん曲を入れて歌い始め、そして先輩方の歌がすごく上手い。

あっけにとられていると近くに座った先輩が、「ほら、おにいちゃんも負けずに歌って」と予約入力端末を渡してくるので、焦りつつ先輩方の年代に寄せて(といっても、まったく演歌とか歌謡曲知らないから寄せ切れないのだが),サザンオールスターズの古い曲などを入れてみた。

 

緊張の中で歌い終えると「いいねーー、良い声してるよ、うちの合唱団入んない? わははは」と奥の先輩が声をかけてくれた。

いや、合唱はちょっと。。。と冷や汗をかきつつハイボールをすすり、それから何曲か歌い(歌わされ?)、結局3時間近くも「リッチ」に居座ってしまった。

 

先輩たちとの別れ際、「おにいちゃん、絶対またここで会おうな。若い人いないと、店もまちはダメになるから」と言ってもらった。おにいちゃんとか、若い人とか言われたが、そういう自分もいい歳なんだよなーと思いつつもやはりそう言ってもらえたことは、まちと先輩方に受け入れてもらえたような気がして嬉しかった。

 

“仮想・一人旅”のラスト一軒は、八幡のさらに裏側にあるディープスポット「裏八幡」ことウラハチ界隈へ足を運んだ。

ウラハチは、八幡の通りの一本南側の通り沿いあたりのことを、界隈の飲食店仲間たちが称しているローカルな呼称で、先ほどの「リッチ」から歩いて数分のところにあるが、「リッチ」が大先輩方のたまり場となっている一方で、ウラハチはディープ八幡ゾーンの中でも比較的若い30〜50代ぐらいの遊び人が集うエリアとなっている。

 

この個性的な店が集まるウラハチで、核となる飲食店となっているうちの一つ「La-Tida」を訪れてみる。一見外からは営業しているように見えない隠れ家的バー(?)は、若い女性店主が一人店に立つ激狭店であり、人気店である。

 

こちらも「リッチ」のことを教えてくれた某飲食店店主から教わった店で、「遅い時間からしか営業しない」と聞いていたので、午後11時をまわったところでちょうど良かった。先客は2名で聞くと八幡界隈で呑んでいたらしい。

 

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昔箱買いしていた好きな銘柄

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活性酒とフルーツはいいもんだ

ドリンクは「仙禽 しぼりたて活性濁り 雪だるま」があったので、それを。盛岡ではなかなかお目にかかれない一本。

お通しは嬉しいことにフルーツ盛り合わせ。酔いの回った体に果物の甘さが実に優しい。

 

さらに一人男性客が来店し、それだけで店が狭いので一体感が生まれる。

わたしは一見であったが、ウラハチ仲間として大いに盛り上がる。

 

某店主からオープン時間が遅いと聞いた話をすると、「えーー、遅いって言っても20時半には開けてますよーーー」と女性店主はそんな風に言って明るく笑ってみせた。

この笑顔と愉しい仲間たちと酒を求めて、夜な夜なウラハチには人が集まるんだなとじわじわわかってきた。

 

人と人との距離が近いのが、この八幡界隈。

かつては上田通もそうだったはずだし、実際そうだった。

 

けど、寂れた寂れたといわれる八幡にもウラハチのように勢いを感じるエリアもあり、上田通だってお洒落な「NAGASAWA COFFEE」のような20年前には考えられなかった人気珈琲店ができ、ところどころに古い建物を使った若者向けの店も見られるなど、変化の萌芽は確実にあるんだろうと思う。

 

今回の“仮想・一人旅”は、なんだか古き良き思い出に浸るための呑み歩きとなったようにも見えるが、そうではなく、次の時代へ変わりつつ移行期としての盛岡のまちを俯瞰できるきっかけになったようにも思える。

 

実にいい旅だった。