tabi-ki47

旅をする。赴くままに旅をして、通りがかった暖簾をくぐり、カウンター席で酒を呑む。※コロナで旅ができないので、昔の旅についても載せることにしました。

呑み記009「メジマグロと十四代と」

ちょっと所用があり三陸沿岸へ行ってきた。

数年ぶりの三陸被災地の復興は目に見えて進んでおり,もうすぐあの日から10年なんだと改めて実感させられる。

 

盛岡に戻り,いつもの酒場の暖簾をくぐる。

生姜風味の優しい鰹出汁をかけた温奴,ひじきと大豆の炒め煮,炙った薩摩揚げがお通しとして出される。

酒は,山形の銘酒「十四代」の中取純米吟醸生詰。酒米播州山田錦

 

「今日だけ特別だよ」と店主から言われ,大事に大事にいただく。

甘酸っぱい香り,溢れ流れ出す果実様の旨味,まったくクセのない余韻と,さすがは「十四代」である。

 

「今日はいいメジ入ってるよ」と店主から勧められ,折角だからと三陸で揚がったというメジマグロを注文する。

「このコロナの不景気のおかげで,うちみたいな場末にもいいモンが安く流れてくるんだよね」と店主が笑う。

 

肉の質感,脂加減,そして旨味を感じ取れる香りと,たしかに質がいい。

さて,「十四代」を呑みつつ常連客と話をする(カウンターの個々の席はアクリル番で仕切られているので,もちろんその板越しに,である)。

 

「仕事は順調ですか?」と左隣の女性客が声をかけてくる。

何度か隣になって,雑談したことがある女性だ。

 

「ええ,まあ,おかげさまで」

なんでこの人は自分の仕事を知ってるんだろうと少し怪訝に思いながら。

記憶にある限り,この若い女性に仕事のことを話したことはないはずだと思いながら。

 

「たしか,医療関係でしたよね。このコロナでお忙しいんじゃないですか?」

彼女は瓶ビールを手酌しながら,そんな風に続けて聞いてきた。

顔がかすかに紅潮しており,ほんのりと酔い始めた感じのようだった。

 

彼女は誤解しているか,誰かと勘違いしているようだった。

「あ,いや,違います。医療関係じゃないですね」と答えると,「アレ,すみません,誰かと間違ったかな? ごめんなさいっ」と言いながら頭をぺこりと下げてみせ,さらに瓶ビールを手酌し,それをぐいっと呑みつつ照れたように笑ってみせた。

 

「美味しそうですね,十四代。次,わたしもそれ呑んでみます」

そう言いながらビールの入ったグラスを呑み干し,「マスターーーー! わたしも十四代お願いしまーーーす!!!」と厨房に引っ込んで料理をしている店主に,そのほっそりとした体に似合わぬ,大きな声をかけた。

 

「はいよーーー! 今行くからちょっと待ってーーーー!」と店主も負けじと必要以上に声を張り上げて寄越したものだから,なんだかそれがおかしくて,カウンター席に張り付いている常連たちと顔を見合わせて笑ってしまった。

 

酒場って,やっぱりいいな。

また,三陸の酒場でこんな風に楽しく呑みたいものだ。