tabi-ki47

旅をする。赴くままに旅をして、通りがかった暖簾をくぐり、カウンター席で酒を呑む。※コロナで旅ができないので、昔の旅についても載せることにしました。

呑み記010「酒持ち込みOK,時間無制限のカラオケバーで大寒卵」

大寒の夜のことだった。

いつも徘徊する界隈にある雑居ビル。

 

たまたまgoogle mapを眺めていて見つけた店なのだが,「バー」というカテゴリのようで気になり,足を運んでみることにした。

オーセンティックバーなのか,半分スナックに足を突っ込んだバーなのか,単なる好奇心で確かめてみたかった。

 

まあ,このあたりでバーといえばカラオケスナックの業態をとっている店が多くオーセンティックバーは少ないから,オーセンティックバーが好きな自分としては,「もしかしたら…」という期待もあった。

 

エレベーターを使わずに階段を4階まで上がり,お目当ての店のドアの前に辿り着いた。

ドアにはぼんやりとスポットライトが当たり,小さく店名が浮かび上がっていた。

 

ドアを開けると,薄暗い空間が目に入ってきた。

「いらっしゃいませ」と迎えてくれたのは,若い男性。

ラフな格好をしており,いわゆるバーテンダーのそれではなく,どうも半分スナック寄りの店なのかと思い始めた。

 

カウンター席に腰掛けバックバーを眺めると,酒の種類もそれほど多くなく,「飲み放題1500円」と書かれた黒板が目に入った。

 

「あ,お酒のほとんどはお客さんの持ち込みです。ウチ,持ち込みオッケーなんです」と店主。

バックバーにはシングルモルトシャンパンの空き瓶がぽつぽつ並ぶ。

 

「カラオケもありますし,飲み放題がお得なんでどうですか?」と言われ,勧められるままに飲み放題とした。

ウイスキーソーダをもらう。ウイスキーは「トリス」。ソーダは「ウィルキンソン」。

 

「去年の秋にオープンさせたばっかりなんですが,こういうご時世ですし,自分も実は店を持つのは初めてなので,こんな殺風景な店内になっています」

 

たしかに7,8坪の店内は,カウンター意外に席はなく,外を望める窓際にはテーブルやイスはおろか,家具類の一切が置かれずがらんとしており,ファンヒーターが一個だけ稼働して部屋を温めている。

 

「まあ,好き勝手できるのがいいっておっしゃってくださるお客様ばかりなんで,ぼくも気楽にやってます。朝までずっといらっしゃる方もいますね」

 

なんと反応して良いのか少々困りながらウイスキーソーダをずずっと啜る。

カラオケもありますよ,と勧められたが断り,店主と世間話を続けた。

 

「けっこうね,公務員の方もいらっしゃるんですよ。こんな店ですが,雰囲気を気に入って下さって」

「その方も週末前は必ずと言っていいほど,朝までいらっしゃいます。まあ,ぼくも夜は強い方なんで,お付き合いするのは平気なんですが,お一人の方から長くお話を聞かされるのは多少大変ですけど。。。」

 

そういって,「いいちこ」のボトルをバックバーから取り,氷を入れたグラスに注ぎ,店主はちびちびと呑り始めた。

どうやら,こうやって自分も酒とカラオケを楽しむスタイルの店なのだ。つまり,バーとはいってもカラオケスナックの類だ。

 

「そうだ,大寒卵って知ってます?」

「ええ,大寒の朝に鶏が産む卵ですよね。これを食べると縁起がいいとかなんとかっていう…」

「そうです。その大寒卵を知人からもらったんで,召し上がりません?」

「いいんですか? いや,ぜひ食べたいですね」

「承知しました。では,少々お待ちください」

 

そういって,店主は奥の厨房に引っ込み,5,6分後に大寒卵の目玉焼き,もっと正確にいえばハムエッグのチーズ乗せを出してくれた。

 

「どうですか?」

「んん,んまいっす!」

「良かったーーー!」

 

店主は顔をくしゃっとして,無邪気に笑ってみせた。

なんとなく,朝まで居座る客がいるのもわかった大寒の夜だった。

なんとなく,大寒卵を食べたから,今年はいい年になりそうな気になれた。