ムスメが中学校を卒業した。何かお祝いにでもと,「食べたいものはなんだい?」と尋ねたところ,「合鴨とかモウカの星とか」という答え。
およそ10代半ばの女子が望む食べたいものとは思えない。が,まあ,わたしのムスメだし仕方ないかと思い,「シン・エヴァンゲリオン」を観たあとに映画館からほど近い酒場の暖簾をくぐる。
予約していたカウンター席に通され,まずは「サッポロ黒ラベル生」をいただく。
ムスメは冷たい緑茶をいただき,メニューを眺めながら「まずは鱈菊を食べよう」と酒呑みのようなことを言う。
鱈菊,いわゆる真鱈の精巣なのだが,北国の冬の恵み。すばらしい質で,すばらしい味わい。
一気にビールを呑み干し,宮城仙台勝山酒造の「伊達御領酒 純米吟醸」をもらう。
すっきりとしているが,甘味と酸味がバランス良く混じり合っている。旨い。
続いてムスメ御所望のモウカの星。モウカ鮫の心臓である。ムスメは気仙沼でこれを食べ,以後すっかりお気に入り。
胡麻油と塩で和え,白胡麻,刻み葱,おろし大蒜が薬味とされている。
「これ,すごく旨い。鮮度抜群!」とムスメが歓喜の声をあげる。おいおい,お替わりしてもいいから一人喰うなよ,と牽制の声をムスメにかける。
わたしが注文した初鰹は鱈菊に負けず,こちらも見るからに鮮度抜群で,食すると,見た目そのままのしっとりむっちりとし,脂の少ない爽やかな味わい。
宮城の地酒と本当によく合う。包丁を握る店主に訊くと,やはり気仙沼の魚介をメインに取り扱っているという。
モウカといい初鰹といい,とても質が良い。
さらにさらに,やはりムスメが所望していた合鴨料理。合鴨のロースを柔らかく炊いたもので,これまた合鴨の質が抜群に良くて,箸が止まらない。
「はぁ〜,この合鴨はカコイチだわ〜〜」とムスメは至福の表情。
ちょっとさっぱりしたものを,と桜海老と独活の酢の物。
酒を秋田由利本荘の「雪の茅舎 純米吟醸」として,箸休め。が,箸休めというには失礼なぐらい旨い。
「雪の茅舎」も米のまあるい旨味が効いていて,相変わらずの美味しさ。
で,最後の一品につぼ鯛塩焼きを。
なかなかお目にかかれない珍しい魚。かりりとした皮目と反して,肉質は適度に締まっていて,脂も乗って,かなり美味しい。
食べ終え,「どうだい,満足したかい」とムスメに尋ねる。
「うん,かなりね」とムスメ。
良かった良かった,と思っていたら,「でも,帰りにコンビニでアイス買ってね」とのこと。
あきれたことに,まだ食べ足りないようだ。
と人のことを言えないわたしも,ついつい缶ビールとツマミを買い求めて,家で呑み直してしまったのだった。