tabi-ki47

旅をする。赴くままに旅をして、通りがかった暖簾をくぐり、カウンター席で酒を呑む。※コロナで旅ができないので、昔の旅についても載せることにしました。

雪降る山形,新幹線は運休停止したけれど,酒場で呑んで喰っては休まない。(2) 2022年1月13日(木)-1月14日(金)

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お造り

さて,山形の夜,「いし山」の夜は続く。地酒を呑みつつ箸を休ませず肴を堪能する。

お造りは,帆立,蛸,するめ烏賊,烏賊下足,鮪。そして妻に茹でた菊花がつくところが菊を食する文化が盛んな山形らしい。

 

刺身はどれも鮮度よく,とても美味しい。鮪は赤身と中トロの中間ぐらいの脂の乗りで,こちらは「銀嶺 月山」の熱燗とよく合った。

 

しかしまあ,前菜,八寸,お造りといい仕事をされている。ご主人のもとでは息子さんが後継として仕事を学ばれているというし,今後も安泰であろう「いし山」である。

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焼き鰊

焼き魚は鰊(にしん)である。山形では鰊を「カド」と呼び親しまれている魚だ。春を告げる魚,「春告魚」でもある。

 

10年以上前になるが,山形駅近くの名酒場「川なり」でコース料理に焼いた鰊が丸々一匹出され,「こんな大きなの量が多くて食べられないよ」と思いつつ手を出したら,ぱりりと焼けた皮,しっとりとした身,じわり溢れる脂に箸が止まらなくなったということがあった。

 

盛岡というか岩手は生の鰊を焼いて食べる文化はないことはないが,あまりない。保存食である身欠き鰊の方がよく食べる。ので,焼き鰊は御馳走の類なのである。

この日出された鰊は大きな白子が入っていて,この白子がとろり蕩けてとても美味しい。皮はぱりり,身はしっとり,ほどよく脂がじゅわり溢れ,「川なり」でいただいたときの鰊の美味さがプレイバックした。

 

熱燗「銀嶺 月山」が追加され,冷酒は鶴岡は加藤嘉八郎酒造の「大山 飛切」をもらう。「大山」はキレある爽快な辛口酒で,呑み飽きせずに盃が次々と空いた。

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どんがら汁

山形は庄内地方の郷土料理「どんがら汁」が供される。日本海の荒波の中で肥え太った真鱈の身を余すことなく食べ尽くす鍋料理である。

 

岩手でも太平洋で獲られた寒鱈を鍋に入れることはあるが,真鱈単体の鍋はあまりなく,寄せ鍋の具の一つという印象が強い。そして,岩海苔が入るのが決定的な違い。岩海苔が入るだけでこうも濃厚な磯香りで美味さが増すものかと驚きを禁じ得ない。

 

「今時期,根つきのせりも美味しいですよ」とのことだが,これは宮城の影響があるのかもしれない。

身だけでなく,たっぷりの生で食べられるであろう真鱈の精巣・鱈菊(山形では“だだみ”の方が馴染みがあるだろうか)も鍋に入り実に贅沢なのだが,アラからいい出汁が出て味噌ベースの汁も滋味深い味わいとなっている。

 

〆に饂飩を入れ,出汁を少し足して煮込んだら,これを啜りながら何合目になったかわからない熱燗と冷酒を呑み干した。

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マティーニ

ボルドー」は1960年から七日町で大人の社交場となってきたバーである。訪れるのは2度目。

こちらのブログに詳しく書かれてあり,これを読むと絶対足を運びたくなるのではないかと思う。

cosyoken.exblog.jp

地元Rさん達も「ボルドー」は入ったことがないといい,この店は一見客は誰かの紹介がないと入りづらいので,「いし山」さんから紹介してもらい4名でお邪魔する。

 

福島出身の女性店主・高梨さんは,開店から60年以上カクテルを作りつづけ,200種以上のカクテルのレシピを誦んじることができるといい,確かに酒の知識の豊富さはそこらの駆け出しバーテンダーでは太刀打ちできないほどだ。

 

まずはマティーニをもらうと,「オリーブをね,少しずつ齧りながらマティーニ呑んでね。味も美味しくなるから」と高梨さんが教えてくれる。

言われたとおり,オリーブを少し齧りながらマティーニを呑むと,ドライだった味わいが一気にふくよかで優しく包み込むような味わいになる。

 

「おお!」と感激の声を上げると,嬉しそうに高梨さんは微笑んだ。

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ボルドー店内

胎内回帰を連想させる店内は,音響も素晴らしい。「最近は全然レコードをかけないんだけど」と言いながら,ビートルズ「レット・イット・ビー」をBGMに流してくれる。

 

「このビートルズのレコードはね,なんか古いだけじゃなく貴重らしくてね,譲ってほしいっていうお客さんがよくいるんだよね」と慈しむようにレコードのジャケットを撫でながら高梨さんが話す。

「いつか井上陽水さんがふらっと呑みに来たことがあって,とある古いレコード盤を気に入ってくれたから,“この店を辞めるに差し上げます”って約束してあるの」と言って,高梨さんは再びにっこりと微笑んで見せた。

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ダイキリ

この大雪だし,山形だし,酒田の「ケルン」の井山さん(残念ながら2021年5月に亡くなられた)のオリジナルカクテル「雪国」を作ってもらおうかと思った。

が,注文すると「ごめんね,ホワイトキュラソーを切らしてて」とのことだったので,替わりにダイキリを注文する。

 

これもまた素晴らしい一杯だった。ノーブルな甘酸っぱさ,強めのアルコール感,程よいフレーク感。

 

「美味しいです」と伝えると,「もう60年も作ってるとね,美味しいカクテルも作れるようになるし,ほら,腕もしっかりしてるでしょ」と腕をまくって見せてくれた。

高梨さんの両腕は,ほっそりとしているのだが80過ぎの女性とは思えないほどしっかりと引き締まっており,そしてきめ細やかな白い肌で,とても美しかった。

 

「19歳で福島から出てきて60数年。生活するためにやれることはやってきて今に至っている。元気なうちは,まだまだカクテルを作りたいなって」

 

古いアルバムを引っ張り出し,若かりしころの高梨さんの写真を見せてくれた。そこには,目を引く美しい女性バーテンダーがバーのカウンターに立つ姿が写っていた。

 

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