夕方4時過ぎに業務を終え、ホテルにチェックインして一休みしたのちに、ホテルから徒歩10分くらいのところにある仙台銀座の「お菜晩酌 志ほ」を訪れる。
仙台銀座は仙台駅からすぐ近くにあり、「仙台朝市」から少し西に歩いたところにある、盛岡でいうところの「桜山」のような雰囲気を色濃く残す界隈で、いつかここで呑んでみたいと思っていたところにコロナが来て、なかなか足を運ぶことができなかったという、ちょっと心残りがある場所だ。
この日お邪魔することにした「お菜晩酌 志ほ」さんは、仙台銀座で良さげな店はないかと探していたところ見つけた酒場だ。東北の地酒をセンス良いセレクションで提供しておられるところと、「お菜」という言い方(お菜=おかず)を久しぶりに聞いたので興味も湧いたというということと、「フードスタジアム東北」の記事を読んで店をオープンされるまでの経緯を知ったということが、尋ねてみたいと思った決め手となっている。
予約していたものです、と伝えると「お好きなお席どうぞ」とカウンター席に通され、奥から2番目の席に腰を下ろす。
右手の壁には、件の「お菜」はじめ酒の肴のメニューが書かれたボードがかけられている。
「お菜は三品お選びいただけます」とのことで、どれしようかと迷ってしまう。
日本酒のラインナップがまた素晴らしい。東北6県を網羅し、かつ東北6県以外の酒は置かないという潔さ。
「お酒の鮮度を保つため、すべて四合瓶で扱っています」と女将の志穂さん。盛岡でなかなかお目にかかれない酒もあって嬉しい。
まずはここのところ気に入っている山形酒田の「上喜元 酒和地 純米吟醸活性にごり酒」を。6月限定で発売される爽やかな一杯を。
お通しは刻み葱としらす干しを合わせたものを乗せた冷奴。気温は22、23度ぐらいだが、梅雨入りして蒸し暑い夕方に嬉しい組み合わせでスタートする。
酒が注がれたグラスのフォルムがまたいい。スタイリッシュ過ぎず、野暮ったさがなく、手にもしっくりくる。
選んだお菜は、「おから」「煮卵」「ブロッコリーとうずらのピクルス」。そして単品メニューで「いかの塩から」。入店から5分で隙のない布陣に仕上がり、ただただ幸福感の中で笑みが溢れてしまう。
そしてもちろん、お菜はどれもこれも手作りの温かさに溢れていて美味しい。
「せっかくの旅行(出張だけど)だから、贅沢すればいいのに」という声もありそうだが、これでいいのである。刺身だとか肉だとか、素材の豪華さ希少さに喜んで呑み喰いするのもいいけれど、こういう心から落ち着けて酒を呑める、まさに晩酌気分で寛げる酒の呑み方もいいものなのである(というか、近頃そういう方面に価値観がシフトしている)。
非常に造りが小さいという加美町の田中酒造店の「田林(でんりん) 特別純米酒」をいただく。最近見かける銘柄であるが、調べてみると「真鶴」を醸す蔵の新しい銘柄のようである。
志穂さん曰く、だいぶ取り扱っている店も少ないという。
冷えている状態だと若干硬さもあるが、しっかりとした骨格を持った酒質で、米の風味ほど良く、そして良くキレる。温度が上がれば上がるほど、主張も出てきそうな雰囲気を持つ酒である。
そして福島会津美里町の白井酒造店が醸す「風が吹く 純米吟醸生」を。こちらの銘柄は口にするのは本当に久しぶり。いつ以来だろうか。
これはまたジューシーでたっぷりとした旨味があり美味しい。お菜の味わいを受け止め包み込んでくれるような酒である。
会津産の有機栽培米(五百万石)で醸された一本で、味わいは豊かだが、すうっと体に馴染む。
そうこうしているうちに、次々と客が来店し始めた。店は志穂さんお一人で切り盛りされている。混み合う前に会計をしてまだまだ明るい店の外に出た。
なんともいい店を見つけた。次の仙台もこの店でスタートがほぼ決まった。
客の9割はわたしのような出張客とのことなので、「常連が張り付いていて入りにくそう」とかはなさそうだし、志穂さんのお人柄も開放的でとても話しやすい方なので、機会があればぜひ訪れていただきたい酒場である。
追記
「明日の朝早くから仙台市内をジョギングするんですよ」と志穂さんに話したら、「国分町オススメですよ。普段と雰囲気違って新鮮です」と教えてもらった。なんでも、志穂さんもお店を始めるまでは毎朝ジョギングされてたという。
ので、翌朝は4時前に起きて国分町をジョギングすることになったわけである。
<つづく>