さて、電車で大井町から品川に戻った。まだ周囲は明るく、時間も19時過ぎだった。
「どうせもう一軒行くんでしょ」とムスメに見透かされ、「うん、行ってきます」「行ってらっしゃーい」と言葉を交わし、ムスメはホテルへ戻り、わたしは品川駅から南方面、つまり「北品川本通り商店会」方面へと歩いた。
日が落ちてもまだまだ暑く、早くどこか飲食店に入りたかった。日曜の夜ということもあり、営業している店も少なかったが、外からはカンター席に客が見受けられず、空いてそうな「ここから」という店に入った。
先客はテーブル席に小さい子どもを連れた3人のファミリー。こちらも入店したばかりのようで、あれやこれや注文している。
生ビールをもらい「ふぅーっ」と一息つくと、「御通しです」と奥さんらしき方が小鉢を出してくれた。茹でたブロッコリとマヨネーズで和えたツナ。ツナマヨには刻み玉葱が入っており、これが甘みのアクセントとなり美味しい。
見た目普通の一品だが、なかなかどうして、これだけで実力の一端を感じさせた
店内はエアコンがばっちり効いていて涼しい。暑さで奪われた体力を回復しつつ、サッポロ黒ラベルの生ビールをぐいっと呑りつつ、メニューに目をやると、こちらの店は炭火焼きの店ということがわかった。
魚介は生と干物、ホルモン系に野菜と炭火で焼いてみたい食材がメニューに並ぶ。
干物と貝の盛り合わせを注文すると、奥さんらしき方が「けっこう量あるので、お一人でしたら食べたいものをご注文された方が良いかもしれません」とアドバイスしてくれる。
ので、素直に従ってまずは「特大帆立」を注文する。あとから聞いたのだが、この日の帆立は岩手は大船渡市のものだといい、この日の仕入れでは一番良かった帆立がたまたま大船渡のものだったということらしい。
焼き加減は奥さんらしき方が丁寧に見てくれて、わたしは焼きあがるのを呑みながら待つだけで良かったので楽だった。
酒は、本格焼酎が豊富な店で、かつ手頃な価格設定で好感が持てる。
プレミアムには、「天使の誘惑」「百年の孤独」「佐藤 黒」「宝山シリーズ」があり、いずれも700円。
芋は、「き六」「富乃宝山」「芋」「山ねこ」が500〜600円。
米が、「天草」「泰明」「山猿」がやはり500〜600円となっている。
暑いので焼酎のロックが呑みたくなり「天草」をロックでいただくと、これが柔らかくて透明感があってとても美味しい。久しぶりのこの焼酎を呑んだが、改めて旨さに気付かされた。
烏賊一夜干しを追加注文すると、こちらも岩手三陸の烏賊だとか。ご主人曰く、「これもいいものを仕入れたら、たまたま岩手のものだったんです」とのこと。
偶然だけど、岩手からきた自分からすると嬉しい限り。
芋「き六」をいただきつつ、ぷりぷりとした身の烏賊の食感を楽しみながら、北品川で15年間商売をされてきたというご主人のこだわりを聞かせてもらう。すると、本格焼酎よりも日本酒が好きだというではないか。
ウェブサイトからもそのこだわりが伝わるが、いただいた「篠峯 純吟 生」が本当に素晴らしく、ご主人の思いが伝わってくるようだった。
選び抜かれた一本一本を最高の状態で管理し、最高のコンディションで提供する。当たり前のことだが、これができる店とできない店があるから、店だけでなく酒や蔵の評判も落としてしまうのだ。
「管理の大事さ」を改めて感じさせられた。するりするりと爽やかに喉元を過ぎていく「篠峯」の心地よさで、東京の暑さをいっとき忘れることができた。
ホテルで目覚めると、朝から猛暑だった。客室のカーテンを開けると東から昇った太陽が強烈な日差しを浴びせかけてきて、その熱さに慌ててカーテンを閉める。
ムスメを起こし、無料朝食を急いで食べる。8時過ぎには羽田空港に着かなければならなかった。
のんびりパンを口に運ぶムスメを追い立て、7時半過ぎにホテルを出て羽田空港第1・第2ターミナルへ直行する京急に乗り、無事羽田空港へ到着した。
ムスメを見送り再び品川に戻ると、チェックイン間近になっていたので、身支度をしてホテルを後にした。
ランチタイムを避け、東京駅内の「板前バル」を訪れる。席に若干余裕があり、待たずにテーブル席に通してもらえてラッキーだった。
生ビールをもらい、谷中生姜に味噌をつけて食べると、味噌のしょっぱさが体に染みた。あまりの暑さで汗をかき過ぎて、塩分を欲していたのだろうか。
ビールを呑み干したので、さっぱりした日本酒、山形は「初孫 は号仕込み」を注文する。180mlのアルミ缶発泡日本酒で、こんな暑さの日にはぴったりだ。
刺し盛りを注文する。平目・鱸・銀鮭・真鯛・本鮪赤身と盛られ、1,700円ぐらいだから立地を考えるとお手頃。
しかも、一切れ一切れが厚め・大きめに切られているし、醤油も普通のものと甘いもの、そしてオリーブオイルと用意されており味の変化も楽しめるようにしてある(刺身に関しても醤油に関しても店員の説明は一切なかったが)。
1時間ほど滞在し、帰りの新幹線の時間が近づいたので会計をする。楽しかったが、暑さにすっかりやられた東京二日間だった。
週末には、ムスメを迎えに再び東京を訪れることになっている。そして、暑さはもう少し続きそうなのであった。体調を整えて、再度の東京に臨むことになりそうだ。
<おわり>
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