「けっこういろいろお酒置いてるみたいですよ」と、某酒場の店主から教わり、官公庁が集まる内丸、通称“大手先”と呼ばれる界隈の「春夏秋冬」という酒場を訪れた。
大手先とは、城の大手門があった辺りの先(前)のことをいい、実際盛岡城の入り口となる大手門があったことから、“大手先”とこの辺りは呼ばれ親しまれている。
あらかじめ電話していたため、名乗ると「こちらへどうぞ」ととても愛想の良いご主人がカウンター席を進めてくれ、気分良くなって「じゃ、生ビールください」と間髪入れずに告げる。
さてどうしようか、と店内を見渡すと「晩酌セット」というものを見つけ、それをお願いすることにした。
酒二杯、料理五品で3,000円だからとても安い。
「いらっしゃるのは初めて。。。ですよね? どうぞひとつよろしくお願いします」と店主が名刺をくれ、少ししたら奥さんも顔を出して同じく名刺をくださった。
ご主人はいかにも料理人といった外見だが、先に書いたように愛想良く気さくで、カウンター席には常連らしき先客が張り付くが、すんなりと雰囲気に馴染めた。
奥さんは利き酒師とのことなので、日本酒が俄然楽しみになった。
「はい、どうぞ」と手際よく三品が出され、生ビールを呑みながらちょこちょこつまむ。
酒のツマミというより、おかずっぽい煮物二品に、酒のツマミにぴったりの刺身が出される。
続いて秋鮭を味噌味で焼いたものと出汁巻き。おかずっぽい肴から、徐々に酒のツマミっぽさが出てきた。
一杯目の日本酒は、「AKABU 純米ひやおろし 2022」を選んでいただく。穏やかな香り、緻密な旨味、ほのかな余韻。一気に呑み干す。
「美丈夫 純吟 秋酒」を利酒師の奥さんに選んでもらう。どんな酒を普段呑むのか、どんな店に普段行くのか、などを尋ねられたので素直に答えると、共通の知人などがいることがわかってきた。
五品目は再びおかずっぽい肴。鶏唐揚げ・ポテトサラダ・スパゲティとボリュームある料理。おそらく、ランチもやられていると聞いたので、うまく食材を昼と夜と使われているのだろう。
五品出たから終わりかなと思っていたら、味付けご飯のおにぎりと芋の子汁が出てきた。そういえば、五品に「ご希望でご飯もつきます」とか晩酌セットのメニューに書いてあった。
にしても、なかなかのボリュームである。だいぶ腹も満たされてきた。
で、気づけば店内はほぼ満席。わたし以外は常連らしく「昨日はあの後どこいった?」「いやー、またここに戻ってきてさー」「あはは、毎度のことじゃん」みたいな会話が飛び交っている。
三杯目の日本酒に選んでいただいたのは「奥 純吟おりがらみ生 満月」を。この銘柄は本当に久しぶりに呑む。わずかに活性する、フレッシュかつ果実感のある一杯。近頃の日本酒業界のトレンドを行く旨い酒だ。
満足して会計すると千円札4枚でお釣りがくるというリーズナブルさ。なるほど、だから毎晩常連客はこの酒場に通えてるのだ。まさに酒を愛する者たちの社交場。
大手先に、こんな魅力的な店があるとは知らなかった。まだ9年というが、酒場の王道を行く、これからも足を運んでみたい店だ。